TECH Report 003

ロゴストロンデータの構造解析 3

ゼロ磁場コイルについて

堀内達朗 七沢智樹


概要

前回のLOGOSTRON Tech Lab Report002に続く第三弾として、

今回のレポートでは “ゼロ磁場コイル”について解説する。


目次


1. ロゴストロンで使用しているコイルの種類

1-1 ゼロ磁場コイルの多層化

1-2 正磁場コイル

2. SQUID磁束計

3. ロゴストロンのゼロ磁場コイル

1. ロゴストロンで使用しているコイルの種類

ロゴストロンで使用されているコイルには、右の図1に示すようにゼロ磁場コイルと正磁場コイルの2種類がある。

機種によっていずれかのコイルが採用されている。

図1

図2

図2は、ゼロ磁場コイルに流れる電流と磁場の関係を示したものである。

ゼロ磁場コイルでは、隣り合う導線に逆方向の電流が流れ、図3に示すように、隣の導線間で磁場が同じ向きになり、磁場が増幅される。

図3

次に、その増幅された磁場が、更に隣の導線のペアでは反対方向になるため、磁場が打ち消される。そうして、全体として、ゼロ磁場を形成する。

1.1. ゼロ磁場コイルの多層化


ゼロ磁場コイルのスペックを向上させるため、ロゴストロンの機種のなかには、ゼロ磁場コイルを何枚か重ねて使用しているものがある。

例えば、100倍速機の場合、ゼロ磁場コイルを3枚重ねた3層構造になっている。

さらに、図4に示すような多層構造にすることによって、縦方向で磁場が相殺されるポイントを生じさせることができる。

図4

1.2. 正磁場コイル


ゼロ磁場コイルのかわりに正磁場コイルを使用した機種も存在する。図5に示すように隣り合う導線に同方向の電流が流れるので、断面から見た磁力線は導線間で逆向きになり磁場が相殺される。一方、コイル中心から辺縁に向かっては磁場が増幅される。

図5


図6

図7は、正磁場コイルを2層構造にしたときの磁場の状態を示したものである。

左右に隣り合う導線では、その周囲に発生する磁力線で形成される磁場が互いに打ち消し合う。同時に、コイルを重ねることで上下関係にある導線においても磁場の打ち消し合いが起こり、ゼロ磁場を形成していることが分かる。


以上、ゼロ磁場コイルの構造と仕組みを解説してきた。

図7

2.SQUID磁束計


次にゼロ磁場コイルの一般的な用途について紹介した後、これを用いる目的について述べる。

近年、医療機器として使われている「SQUID磁束計」という測定器にもゼロ磁場コイルが使われている。

心電図や脳波が計測できるのは、心臓や脳の中に電圧の発生源があるためで、電圧が発生すれば導電性である人体に電流が流れ、電流が流れると当然、脳や心臓にも磁界が発生する。

通常、この脳磁界、心磁界は、数pT〜数十pT(テスラ)と地磁気(25〜65μT)の100万分の1から10億分の1レベルであるが、この磁界を測定して心臓や脳の検査をより高い精度で行うために、外部磁気雑音といわれる地磁気や、遠く離れた磁場源からの影響を取り除く必要がある。

その際にゼロ磁場コイルの性質を応用してピックアップコイルの位置近傍に左右逆巻きコイル(逆巻きのため、磁場は相殺し合う)を設置することで、空間的にほぼ均一な外来磁気雑音の時間変動は検出せず、微弱な磁場の時間変化のみを測定することが行われている。図8に、 「SQUID磁束計」に使われる基本的な磁束検出コイルと出力の関係を示す。

図8

図中(a)は1つの検出コイルからなり、検出されるすべての磁束がそのまま出力されるため、磁気雑音の低減には繋がらない。


図中(b)は、矢印で示すように、上下段のコイルC1、C2の巻き方向を反対にしたものである。このため、地磁気のように磁界発生源がコイルから遠く離れている磁界の場合はコイル周辺で均一な分布となるので、コイルからの出力B0は現われない。それは、二つのコイルC1、C2に同じ量の磁束が入り、互いに打ち消し合うからである。

このように、地磁気など、遠方発生源由来の均一な定常磁気雑音は、左右逆向きコイルにより消去することができる。

その一方で、例えば脳磁界を測定するような場合、頭表面に近いコイルには多くの磁束が入るが、頭部から遠いコイルに入る磁束は少ない。また、C2の磁束の向きはC1と逆になる。そのため、出力B0はコイルC1、C2それぞれで測定される磁界BC1とBC2の差になり、その差が脳磁界として計測される。

雑音となる磁界発生源が、このコイルから十分に遠く離れている場合に、有効な測定法である。

図中(c)は、中段のコイルC2の巻き方向を、その上下に配置したコイルC1、C3と互いに逆にしたものであり、図中(b)の形を2つ組み合わせたものともいえる。

出力B0は、C1、C3のコイルで検出される磁界の和と、中段のコイルC2で検出される磁界との差になる。このタイプの特徴として、地磁気や遠方由来の均一な磁気の消去にさらに有効なコイル配置であることが挙げられる。

このように、ゼロ磁場コイル(無誘導コイル)を使用することで“外来の磁気雑音”をキャンセルして微弱な磁界(磁束密度)の正確な測定をすることが可能となる。

3. ロゴストロンのゼロ磁場コイル


SQUID磁束計のように検出を目的としているわけではないが、ロゴストロンのゼロ磁場コイルも同様に、外来の磁気雑音をキャンセルする機能を有している。

このことはすでにTech Lab Report001で、ロゴストロンLとiPhoneをメビウスアンパイアのゼロ磁場コイルの上に置いてガウスメーターで測定した結果を紹介しているが、測定の際にわざわざロゴストロン大型機の上に設置して測定したのは、周囲磁界の影響をキャンセルし、メーター値を安定させるためである。


ところで、ロゴストロンに搭載されたゼロ磁場コイルには、LTD波や矩形波(PWM波)の信号が電流として流されることを、すでにTech Lab Report 002で紹介した。

せっかくコイルにロゴストロン信号を送っても、磁界がキャンセルされてしまうのでは、信号の機械外部への伝送を媒介するものがなくなるので、そもそもコイルに信号を送る意味が無いように思われるかもしれない。

しかしながら、ゼロ磁場コイルは“理論上は”無誘導コイルではあるが、実際には電流信号が流れる行きの導線と帰りの導線の間では、どうしても導線の直径分だけ離れたところに電流が通るため、インダクタンスは必ずしもゼロにはならず、コイルも完全なゼロ磁場にはならない。

つまり、両方の導線から等距離で磁界がキャンセルされる箇所は限定されるため、等距離にならない箇所がいたるところに存在することになり、LTD波や矩形波(PWM波)の電流信号から発生する磁界が完全にはキャンセルされないということである。

このことについては、積層形の無誘導コイルの上下の導線についても同じことがいえる。

ゼロ磁場コイルは、入力された電流信号の流れに誘起されて発生する磁界を完全にキャンセルできるわけではなく、本来の役割は、前述のSQUID磁束計で解説したように、外来の磁気雑音をある程度鎮めることなのである。


それでは、このゼロ磁場コイルからどれぐらいの磁場(微弱なレベルも含む)が検出されるのかについては、今後予定している測定の結果が明らかになり次第、本レポートで報告していく予定である。

〈参考サイト〉

SQUID磁束計、心磁界、脳磁界については、以下のサイトを参考にさせていただいた。

BME (Bio Medical Engineering) Vol.2, No.6, 1988 一般社団法 人 日本生体医工学会発行

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmbe1987/2/6/2_6_376/_pdf

https://www.molecularscience.jp/research/2/2_2.html

https://www.tdk.co.jp/techmag/inductive/200605/index3.htm

https://product.tdk.com/info/ja/techlibrary/developing/bio-sensor/index.html

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